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Vol.3
まち タテモノ アート前編
鼎談
3
イラストレーター
黒田 潔
評論家
清水 穣
ユミコチバ アソシエイツ 代表
千葉由美子
IZANAGI / INVITATION
平井 崇
竹田大輔
「まち_タテモノ_アート」にまつわるトークの後編に続きます。「阪急阪神銀座ビル」外壁のアートワークが竣工から、タテモノのアートはとにかくでかくなる?という話題について。

 

〔後編〕

晴れ間から木漏れ日が落ちてくる空間をイメージ

竹田
黒田さんには、2020年の4月にオープンした「阪急阪神銀座ビル」のビル全体を覆うイラストをお願いしたんです。

千葉
壁面はガラスですか?
竹田
そうです。カーテンウオールですね。そのガラス面に田島ルーフィングの新素材フィルムを貼っています、これ凹凸が出るのです。
黒田
光が当たった時にどうグラフィックが見えるかっていうのもシミュレーションにだいぶ時間をかけましたね。
竹田
モックアップまで作りましたね。外壁の2層分ぐらいを現場に立てて。商業ビルはパブリックアート的な側面も持ちつつ、クライアントの意向を汲みながら変化していくものですから、自分の中にアーティストがいたらダメなんですよ。
清水
逆に、アーティストはこういう仕事を成功させることはできないですよね。
千葉
バランスを保っていく力というか。アーティストはビルを壊しかねない(笑)
竹田
でも楽しかったですね。長い期間をかけて。
黒田
そうですね、長期でやったので、素材の選び方とか、最初の考えからスペースの使い方が変わっていくのをどうするかとか、そういうやり取りもありましたね。
平井
最初はもっと大きな面を使って攻められたんですよ。
竹田
銀座の並木通り、木々がガラス面に映って森になるというようなイメージでした。でもテナント、使い手の意向もくみ取ることも重要ですから、入るブランドのイメージとそれが合うかどうかがまだ見えないからという試行錯誤を、事業主の阪急阪神不動産 鍛冶屋さん・山塙さん、設計のINA内藤さん、ゼネコンの青木あすなろ建設の皆さん、みんなでアイデアを出して竣工しました。
清水
この花の絵が描いてあるのはどこなんですか?

黒田
これはエントランスですね。並木通りの木漏れ日・晴れ間、光が隙間からフワーっとあふれ出ていくというイメージ、それに対してグラフィックを考えました。
清水
そのコンセプトを考えるのは誰なんですか?
竹田
商品企画時に提案するコンセプトですね。あわせてアーティストをご提示します。
清水
すごくいいコンセプトだけど、今の日本人のピーカンじゃない心を映しているような気もしますね(笑)
千葉
でも銀座のああいう建物の中で、木漏れ日が落ちてくるというのは気持ちよさそうですよね。
黒田
そうですね。それでガラスのああいう素材で、どうそれを表現していくかということはすごく時間をかけましたね。ストライプの影の部分とか。
清水
建築物でイメージ通りにするのってものすごく難しいですよね。
竹田
そうなんです。すごく恵まれた仕事ではありました。クライアント・設計・ゼネコンの全員が協力的に進めてくださった結果でしょうね。
清水
調整するのはすごく難しい役回りじゃないですか?
竹田
それは得意なんです(笑)。建築設計から広告代理店とのお仕事と関係者の多い仕事を経験した結果でしょうね。
清水
確かに、このガラスの箱だけだったら物足りないですよね。ルイ・ヴィトン(青木淳設計)のファサードとか、けっこう派手な通りですものね。黒田さん、銀座のメイン通りに作品ってすごいですね!

なぜかどんどん作品が大きくなっていく

千葉
黒田さんは2010年の「MOTアニュアル」に参加されていましたね。
清水
「MOTアニュアル2010」ではすごく大きなウォールペインティングもされていましたよね。
黒田
最初は10日間ぐらいかけて描く予定だったんですが、ペンキの色が違っていたり、下絵を投影するプロジェクターが映らなかったりで、スケッチしかできなかったんです。あとは朝から晩までひたすら描く毎日でした。

千葉
MOTアニュアルの同期にはどんな方がいらしたんですか?
黒田
山本基さんとか、塩保朋子さんとか、彫刻の青木克世さんとか、森淳一さん、松本尚さんとか……。滞在制作をしたのは僕と山本さんですね。山本さんは塩で造形をするアーティストですが、美術館側で最初の塩を間違えちゃっていたらしくて……。結局スーパーで買えるものだったみたいでスタッフの方が急遽スーパーに走って無事スタートはできたんですが。
清水
粒子の違いで作品が変わっちゃいますよね。
黒田
僕のペンキの間違いもあって、最初は現場に緊張感があったんですが山本さんの人柄が素晴らしくて、最終的にはすごくいい雰囲気で進みましたね。
千葉
塩保さんは、切り絵というか、紙の作品ですよね。
黒田
そうですね。彼女はアトリエでは広げられないような大きな紙を素材に選んで、近くの小学校の体育館を1日借りて、上からデジカメで全体像を撮影して、それから細部を切り込んでいくという手法でした。この時はいろいろな方の発想や制作方法を知ることができましたね。
千葉
大きさと制作場所という問題はありますよね。
竹田
黒田さんの作品はだいたい大きくない?
黒田
なぜかどんどん大きくなる傾向にありますね。
清水
それで「阪急阪神銀座ビル」も白羽の矢を?
竹田
とある商業施設で黒田さんのお仕事を見たんです。大きな絵を描ける人って少ないんですよ。机のサイズ以上のものが描けない。これは難しいんです。大きいものには必ず問題があるので。
清水
それは学生にもよくいますね。

イラストと映像の間の矛盾

竹田
僕自身、大きい空間に描かれている作品が好きなんですよね。そういう仕事も実績も多数あって得意なんです。黒田さんは原寸で描いているんですか?
黒田
スケッチ自体は自分の家でできる範囲ですが、できる時は原寸で描くようにしていますね。もちろん限度はありますが。
清水
多くの場合、写真で物事はチェックできますが、写真で唯一できないのが原寸なんです。サイズを伝えることができない。ネット美術館がダメになるのは、やはりサイズがわからないからなんです。だから映像がそういう面をカバーできるようになるとすごく広がりますよね。黒田さんの、下絵をプロジェクションしてから描くというやり方は、その時点ですごく映像的だと思うんですね。例えばもっと野蛮な人だったら、フリーに描いていって、植物が成長するみたいにその壁を埋めていく。そういうのって実はあまり面白くないんですね。やはりある程度は「こうしたい」というヴィジョンを持っている人は、全体像を投影するしかない。そういうのって、イラストレーターの生理と矛盾するものがあるのではないかなと思って。
黒田
そうですね。最初に大きな作品を描いたのがフランフランの青山店だったんです。その最初のブラッシュアップの時に、信号の向こう側で待っている人の目に入るものにしてほしいって言われたんです。10mぐらい向こうから見ている人の目に入るように。それには机のサイズで見ていても効果がないってはっきり言われたんです。だから必ず仕上がりのサイズが想像できるようにはしていますね。

清水
手描きと写真は相容れないんですよね。例えば原作漫画とアニメを見比べて、その生々しさにぎょっとすることないですか?「風の谷のナウシカ」の漫画版とかを見ると全然印象が違いますよね。アニメはたくさんの手を経て撮影する技術ですが、漫画はすべて手描きという、原始的ともいえる作業です。イラストレーターもある意味ではその延長線上にあると思うんです。
竹田
矛盾が生まれるわけですね。
清水
でも大きなものを生み出すには、一度その映像的な部分を受け入れなきゃいけない。大きなものを描ける人が少ないっていうのは、それを受け入れられる人が少ないということなのかもしれない。
平井
「見上げ」が難しいですよね。人間の目って横はけっこう理解できるんです。でも上を見上げるとひずんでいくからすごく難しくなるんです。
清水
高さのある建物は写真に撮るのも難しいですね。
千葉
広角レンズで撮ったみたいになりますよね。
竹田
誘導する側はそんな苦労があるとは気づいていなかった(笑)。キャスティングした時点で「もう大丈夫。早くできないかな~」って。
平井
そんな他人事みたいな……。

アーティストはサイズフリーを目指す?

竹田
固定している作品で、このまま見るよりもスマホで撮って観た方が面白いなと思うことがありませんか?カメラという現代的なものを通して飾った方が面白く観えるのかなって。
清水
それはもう二つは別物ですからね。大きな作品の場合、現場にいたら全体は見えない。でも写真は全体を収めることができるからまた別の世界が生まれると思います。「ゲルニカ」だって、我々が写真で見ているあの全体像なんて、実際には見えるわけがないですからね。
千葉
でもそのスケール感の差ってすごく大きなポイントですよね。アーティスト自身がサイズにはこだわらないとか言っていても、やはり作品に合ったスケール感はあると思うんです。黒田さんの場合は、やはりそのスケール感が最初から違うのだと思う。そういうスケール感で仕上げようとする意識がアーティスト側にもないと。
竹田
固定している作品で、このまま見るよりもスマホで撮って観た方が面白いなと思うことがありませんか?カメラという現代的なものを通して飾った方が面白く観えるのかなって。
清水
イラストレーターという人たちは、やはり机や、モニターや、ポスターや、それぞれのサイズ感で仕事をしていると思うんですよね。だからそれを外して「サイズフリーのイラストレーター」になることは実はこれから必要なのかもしれない。
竹田
俺もサイズフリーになろうかな。
清水
それはもう今「F」ですよね(笑)
竹田
クライアントにも“俺はもうサイズフリーなんで大丈夫です”って。
清水
それは写真の感覚と同じなんですよね。サイズがない。デジタルの進歩はすごいから、小さくてもものすごい画素数になっていますからね。どこまで引き延ばしてもピクセルが出てこない。これが監視カメラになったら大変ですよ。
千葉
フィルムからデジタルカメラになったっていうのはものすごいことですよね。
清水
だから怖いし、面白いとも言える。私たちはデジタルと一緒の時代を生きているから。

人を喜ばせるというクリエイティブの力

竹田
でも今回の仕事を経て、驚いたのが、みんながすごく喜んでくれたことですね。完成した後に竣工映像を作成しましてね、最初に関係者に映像を展開したら皆さん喜んでいただいて、そのあと弊社の協力会社さんへ送ったら“竹田さんがやろうとしてたのはこんなにいいものだったんですね”と。お世辞もあると思いますけど。
清水
協力していた人も気づかなかったんですね(笑)
竹田
お前ら気づかなかったんかいと。
清水
でも人を喜ばせるというのは、実はクリエイティブの重要な力ですよね。人ってそんなに簡単には喜ばないですから。
竹田
そうですよね。以前だったらもう少し斜めに物事を見ていたのでしょうが、やはりアートへのコンプレックスが消えたことで“ああ、こういうことをしていってもいいんやなあ”と思えるようになりました。これまでは“もっとブランディングしなきゃダメだよ”みたいなことを言われても、いや、わざわざカテゴライズせんでもええやんと。狭域でブランディングなんていらんだろと。いろいろやりたいこともあるし。だけどこれほどまでに喜ばれる仕事であるなら、やっぱり“うちはこんなことをしているんですよ”って伝えていくのは大事なことなのかもしれないと思えるようになりました。決してロゴだけつくってブランディングだとかはしませんけど。
千葉
コンプレックスが消えたことが、まさかそんな変化につながるなんて。実は今、ネオン菅の作品でおすすめがあるんですけど……。
竹田
それ、シュリグリーの大きくて会社に入らないアートか...。
千葉
飾るために物件を買うんです。
清水
だから怖いし、面白いとも言える。私たちはデジタルと一緒の時代を生きているから。
竹田
ひー

さて、「まち_タテモノ_アート」にまつわる座談会はいかがでしたでしょうか?まとまっていないようでして、意外と今っぽい話ができているような気が...しませんか?新型コロナ以降、物事のデジタル化は加速しています。私たちもリアルを知っているからこそDXをテーマに仕事を推進しています。これまでの提案も、納品も、運営もデジタルへ。
しかし、デジタル化を行えば行うほどコンテンツの重要度を感じています。そこには人・現実での体験・そして生まれるシナリオがありますね。
ちなみに撮影させていただいたガゼボ清澄白河さんは、以前は新富町にあったとある店から独立されたお店です。新規オープンで訪れましたが、シャレたお客さんが多い...。清澄白河恐るべしと、撮影場所としてお願いしました。座談会後の二次会は下町の居酒屋「だるま」へ。
お会計の際「何かアートのイベントでもあったの?」と聞かれる。やはり恐るべし清澄白河だな...。
協力:Que c’est beau ガゼボ清澄白河
〒135-0023 東京都江東区平野1-13-9
TEL 03-6240-3901
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